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──物語はどのようにして生まれたのですか?
飯塚:この脚本は主演が堀家一希くんに正式に決まってから、彼に寄せていくように修正を加えました。もともとはゲイの男の子が、家庭を顧みず自分のことを理解してくれない母親と対峙する物語でした。純悟がフィリピンダブルだという設定は、後から取り入れたものです。というのも、この10年ほどの間にセクシャルマイノリティの表象が頻繁にされてきている中で、単純にゲイという存在を描いても、もはやそんなに意味がないと思ったんです。なので、この脚本を選んでいただいた後ではありましたが、プロデューサーに「この作品のテーマをもう少し見つめ直させて欲しい」とお願いしました。そこから改稿するうちに入ってきたアイデアが、人種間の問題や差別の問題です。こういった主題を持った日本の作品はすでに登場していますが、これからさらに増えてくると思います。いままで僕たち日本人は、あまりにも人種間の問題に無頓着すぎたと感じています。僕自身が感じている時代の流れに合わせて、「これはいまやるべきだ」と、本作の主題に据えました。さらにこれを堀家くんが演じるとなったとき、俳優さんとこんなにも近い距離感で一緒に映画作りができる機会はそうありませんから、彼のパーソナルな部分にとことん向き合い、最良の演技を引き出せる内容にしたいと考えて対話を重ねました。純悟と堀家くん自身の重なる部分が濃ければ濃いほど、エモーショナルなものになる確信があったんです。それらが脚本には反映されています。
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──本作は飯塚監督のキャリアにおいて、どのような作品になったと感じていますか?
飯塚:映画界に身を置いていて、いつも迷うんですよね。“映画作りとはこういうものだ”というような暗黙のルールがあるような気がしていて、そこでの空気を読まなければならない感じに、ずっと居心地の悪さを感じてきました。でもふと気がついたのが、この広く一般化されている作り方に囚われているのは自分自身なのだということです。違う作り方がしたければ、すればいいんですよね。幸いにも本作は、さまざまな方の理解と支えによって、ほかにないような映画の作り方をすることができました。新たな居場所ができた感覚があります。決められた枠組みの中から飛び出してみた結果、すごく自由になれた。これは映画作りに関してだけでなく、働き方や生き方も含めてです。本作はこれからの僕の映画作りにおいて、新たな起点になるものだと感じています。撮影は2021年の夏前で、完成してからは嬉しいことにいろいろな映画祭で上映されています。作品とともにすでにいろんな場所に行っているので、撮影時のことは大昔のことのように感じますね。僕は作品を作るときにいつも同じことを思うのですが、作品が誰かの目に触れた瞬間に、自分が生んだ子どもが歩き始めたような感覚になるんです。つまり本作の場合は、日本での公開前から勝手によちよちと一人歩きを始めている。あとは見守るだけというか、「もう大丈夫だな」という気持ちがあります。